ブログ

2025.06.23

atelierTSUKI 小辻美穂さんにインタビュー【インキュベートルーム入居者インタビュー】

atelierTSUKI 小辻美穂さんにインタビュー 【インキュベートルーム入居者インタビュー】

話し手:小辻さん

【プロフィール】

小辻 美穂(atelierTSUKI)

国内向けに古着販売、海外向けに着物のハギレや帯を販売。2025年4月よりインキュベートルームに入室。京都での刺繍修復師の経験を活かし、日本の美を世界に広げるため、専門家のサポートを受けながら新たな作品づくりや販路開拓に取り組んでいる。

聞き手:アサカワミト

<インタビュアー>
アサカワ ミト(コミュニティマネージャー)

ひらっくコミュニティマネージャー。受付業務をしながら、施設の紹介、シェアオフィス会員などを始めとした利用者さまへのインタビューなど、つながる場と機会を作っている。ランチ会をはじめとした、交流イベントの企画、司会進行なども担当。

インキュベートルームの入居者さまにインタビュー

枚方市立地域活性化支援センター「ひらっく」は、新たな事業の創出に加え、地域産業の振興を図るため、起業相談や売上アップ、資金繰りなど経営に関するさまざまな相談にお応えしています。

さらに、多くの方の知見を活用できるコミュニティ型の創業支援施設として、創業支援のワンストップ相談窓口となり、専門家による経営相談、人材及び組織の育成支援等を行うとともに、利用者同士が交流でき、ビジネス面での相乗効果が期待できる機会を創出しています。またセミナー・講演会の開催や会議室、セミナールームの貸し出しも行っています。

今回は6階にあるインキュベートルームの入居者さまにインタビューをします。

インキュベートルームとは、企業や起業家を支援・育成するために、負担の少ない使用料で貸し出しているオフィスのこと。専任のスタッフが豊富な経験に基づいてビジネスモデルや企業経営のアドバイスを行い、独り立ちを支援しています。オフィスは1年から最長3年まで使用可能です。

そんなインキュベートルームにこの4月に入居された、atelierTSUKIの小辻美穂さんに今回はお話をお伺いします。

海外に向けて、美しい和装素材を販売

ミト:今日はよろしくお願いします。

まずは小辻さんの簡単な自己紹介とお仕事についてお伺いしてよろしいでしょうか。

小辻さん:atelierTSUKIの小辻美穂です。

初めは古物商として、古着などの販売をメインにしていたのですが、昨年の冬から海外向けに着物の生地のはぎれや金糸、帯などの販売を始めました。

ミト:はぎれや帯はイメージが湧くのですが、金糸というのはどういったものなのでしょうか。

小辻さん:金糸は、芯糸に本金箔を巻きつけた糸のことで、京都の職人さんが作られています。主には着物の刺繍や、祭のお神輿とかに使われる立派な幕、あとはお寺の荘厳具(しょうごんぐ)と呼ばれるものにも使われています。

こちらが金糸。糸に本金箔を巻いたもので、よくみると螺旋状に巻かれているのがわかります。
ちなみに左が本金箔で、右は本金箔ではないもの。実際比べてみると輝きの上品さが違います。

ミト:なるほど。そしてこちらが着物のはぎれですね。

小辻さん:はい。着物は昔のものになると、どうしても年月とともに黄ばんだり傷んだりしてしまうので、そのままの状態で着るのは難しいんです。だから、特に傷みや汚れが出やすい裏地は処分して、綺麗な表地だけを使っています。この表地はすべて絹、シルクです。

ミト:色合いが本当に美しいですね。柄が細かくて、染めもすごく繊細です。

小辻さん:ありがとうございます。シルクでこれだけ色鮮やかな柄は日本独自だと思います。

このはぎれは、着物の制作過程で出てくるはぎれではなく着物を1着ずつ解体して、綺麗な部分を切り出したものです。

ミト:海外ではどんな方が購入されているのですか?

小辻さん:主にパッチワークや洋裁、刺し子をされている方々が多いですね。

購入された方からは「壁に飾るアート作品を作りました」という声が多いです。このような感じで10色・10枚セットにして販売したりしていて、それで1つの作品を作られる方もいらっしゃいます。

ミト:並べて見ても、柄が全く喧嘩していないのがすごいですね。

小辻さん:そうなんです。色味を揃えて組み合わせるように意識していて、柄は違っても全体が調和するようにしています。

仕入れたそのままでは、アイロンもかかっていないし、正直あまりきれいとは言えない状態のこともあるので一つひとつ整えて、ちゃんと使える状態にしてから販売しています。

海外での需要の発見と、価値の再評価

ミト:なるほど。こういったものを、海外の方に向けて販売されているんですね。

小辻さん:はい。海外の方が、日本の文化をインテリアとして楽しんでいて、需要があることがわかってきて。「これだったら私も何かできるかもしれない」と思うようになりました。

というのも私は以前、日本刺繍の修復の仕事をしていたことがあって、こういった素晴らしい日本の伝統美の価値を見直してもらえたり、高く見てもらえるようなことが出来ないかと考えていたんです。

ミト:素敵ですね。そういったものに需要があると実感されたのは、どういったことからだったんですか?

小辻さん:はい。今、海外向けECのプラットフォームで販売しているんですけど、決して安くはないものなので、購入してくださる方一人ひとりと丁寧にメッセージのやり取りをしているんです。で、そのやり取りの中で「どうして購入されたんですか?」とか「何に使われるんですか?」というのを、毎回聞くようにしていて。

すると「日本に行ったことがあって、そこから和の文化に惹かれるようになった」とか「着物や、日本の生地や素材がすごく好きで、それを使ってハンドメイド作品を作りたい」っておっしゃるんです。

ミト:なるほど。直接お客様の声を聞いていくうちに、確かなニーズを感じ取られたんですね。

小辻さん:お客様からの声がすごく大きかったですね。

ミト:古着の販売からこういった和装の販売にシフトするきっかけというのはなんだったのでしょう?

小辻さん:はい。先ほども言ったように、以前は京都で日本刺繍の修復の職人をしていました。2人目の子どもを出産して育休を終えたタイミングで退職したんですが、その後は古物商として国内向けに古着の販売を始めたんです。

その仕事をしている中で、立派な刺繍や、染め、織り…職人さんが手間暇をかけて作った古い着物や帯が、捨て値で取引されていることを知って「こんなに価値のあるものが、もったいない!」と思ったんです。自分が日本刺繍の修復の職人だったからこそ、強くそれを感じました。それと同時に、これはきちんと魅力を伝えれば、分かってくれる人が絶対にいるとも思ったんです。

小辻さん:日本国内ではなかなか伝えるのが難しいんですけど、海外だと日本文化が好きな方もたくさんいらっしゃるので、そういった方々に向けて商品の魅力やストーリー、作り手の背景などを英語で丁寧に伝えていったら、少しずつですが、知ってもらえるようになりました。

実際に購入もしていただけるようになったので、そこから海外向けの販売を本格的に始めました。

ミト:海外の方に魅力が伝わったんですね。

小辻さん:そうですね。海外の方は日本文化が好きでも、たとえば吉祥紋だとか、そういった細かいことは知らないので、発信すると喜んでもらえるんです。

ミト:それは海外の方にとっては嬉しいでしょうね!

いまの仕事に辿り着いた経緯

ミト:修復士は、どれくらいされていたんですか?

小辻さん:10年弱くらいでしょうか。わりと熱心にやっていました。

ミト:その修復の仕事を始めようと思ったきっかけは何だったんですか?

小辻さん:もともと刺繍がすごく好きで、ものづくり自体もすごく好きだったんです。それで「刺繍の仕事ってないのかな」と思って探していた時に、たまたま京都の日本刺繍の会社を知って。

普通の刺繍は少しやっていたんですが日本刺繍はまったく未経験だったので、まず見学に行って、「やらせてください!」とお願いすると、インターンのような形で関わるようになりました。

その後「正社員でおいでよ」と声をかけてもらって、働かせてもらうことになったんです。

ミト:おお、すごいですね。大学は美術系の学校ですか?

小辻さん:大学は行ってないんです。だからそういう専門的な勉強は全然していなくて。20代はほんとにぷらぷらしていて、アルバイトでお金が貯まったら海外に行って、帰ってきて、また働いて……みたいな。自由に過ごしてましたね。

ミト:そうなんですね。今までどんな国に行かれたんですか?

小辻さん:フィンランド、エストニア…北欧がすごく好きです。あとはイタリアやフランスにも行きました。ヨーロッパは色々行きましたね。あと、オーストラリアも。

ミト:かなり行かれているんですね。すごい。好きなように生きるって、なかなかできることじゃないですから尊敬します。

小辻さん:当時は不安もありました。周りと比べたり、いろいろ言われたりもしましたし。でも今では良かったなって思ってます。

ミト:修復士を辞めてからは個人事業として古物商を?

小辻さん:そうですね。個人で事業を始めました。その頃は国内向けに、食器や古着がメインでした。そのときの経験はすごく役に立っています。たとえば、何が人気あるか、どういう商品に需要があるかを常にリサーチしてきたので、その視点が今の海外販売にもつながっていると思います。

ミト:当時は海外向けの販売は特にされていなかったんですよね?

小辻さん:海外向けはまったくやっていなかったですね。きっかけは、さっき言ったようなことを考えていて、それでちょっとやってみようかなと思って着物のはぎれを販売し始めたことからでした。

販売していくうちに、お客様から「こういう用途で使いたい」とか「こんなものを作りたい」といった声をたくさんいただくようになって。そういった“生の声”が一番参考になるので「お客さんが本当に欲しいと思っているもの」を聞く姿勢を大切にしています。

ミト:そんな、海外のお客様が欲しいという思いと、小辻さんが伝えたい職人が手間暇かけて作ったものの価値が、うまくマッチしたんですね。

小辻さん:そうですね!

小辻さんの仕事マインド

ミト:ここからは、小辻さんのお仕事をする上でのマインドの面をお聞きしたいと思います。まず、お仕事の中で起こる困難をどう乗り越えているか教えてください。

小辻さん:私は「話す」ことですね。

こう見えて私は、新しいことを始めたり、新しい環境に飛び込んだりするのにすごく不安を感じるタイプなんです。不安と心配が入り混じって、もう吐き気がするくらいになることも。

でもそんな自分の弱みや苦手を、隠さずに人に伝えるようにしています。

私は人に話すこと自体すごく苦手なんですが、それでも勇気を出して伝えるようにしています。

そうすると、意外と「私はそれ得意だから手伝えるよ」とか「私も前にそうだったよ」って言ってくれる人が現れるんです。

今一緒にお仕事を手伝ってくださってる方も、私が苦手だと思っていた部分を「全然大丈夫ですよ」って引き受けてくださったりして、本当にありがたいなって思ってます。

ミト:「話す」ってすごく大事なんですね。

小辻さん:はい。ずっと一人でやってきたからこそ「話すこと」の大切さに気づきました。話すことで、自分の中の不安が少しずつほどけていくというか。「いけるかもしれない」って思えるようになるんです。

話さずにいると、気持ちが前に進もうとする自分を逆に抑えてしまうような感覚があるというか。

ミト:どんどん話すハードルが上がるというか、話せなくなっていくんですよね。

小辻さん:そうなんです。だからこそ「ゴールをちゃんと明確に持つこと」が大事だなって。ブレずに自分がやりたいことをしっかり持って伝えていけば、たとえ少しずつでも進んでいけると思っています。

ミト:ありがとうございます。

では、お仕事のインスピレーションを得るために使っているテクニックなどはありますか?

小辻さん:テクニックというほどのことではないんですが……お風呂に入ってる時とか、子どもと公園で遊んでる時とか、まったく仕事をしてない時。

いわゆる「アンプロダクティブタイム」って呼ばれるような時間に、アイデアがふっと降りてくることが多いんですよね。そうやって切り替えるだけでふわっとアイデアとかが出てくることがあるので、自分がちょっと緩んだタイミングをすごく大事にしています。

ミト:仕事とプライベートのバランスを保つために意識してることってありますか?

小辻さん:さっきと繋がるところでもあるんですけど、“趣味を持つ”ことですね。仕事が好きだからこそ、際限がない“セルフブラック”に陥りやすいと思うんですけど、無理なく続けていくためには“あえて休む時間を作る”ということが必要だと思っていて。

仕事とは関係のない趣味を持って、意識的に休む。私は料理とかお菓子作りが好きなので、発酵食品や麹を作ったり、米粉を使ってお菓子を焼いたりしている時間が、すごくリフレッシュになっています。料理しながら無心になれるのが好きなんです。だからやっぱり修復士のように、黙々と手を動かす作業が元々好きなんだなと思います。

インキュベートルームについて

ミト:ではここからは少しインキュベートルームについてお聞きしたいと思います。

まずはそもそも、インキュベートルームのことはどのようにして知ったんでしょうか?

小辻さん:もともと「ひらっく」のコワーキングスペースを、週1回行くか行かないかくらいのペースで使っていました。ちょっと気分転換したい時や、いつもと違う環境で仕事がしたいなと思った時に来ていて。

そこでランチ会のことを知って、何度か参加させてもらってたんです。その時にちょうど、インキュベートルームの募集をされているのを知りました。

ミト:結構、毎月ランチ会に参加してくれてますもんね!

(ランチ会の様子)

小辻さん:見学させてもらったら、すごくいい場所だなって思って。それは場所が良いっていうだけじゃないんです。

私はひとりで事業を始めたので、ずっと自分の感覚と、好きっていう気持ちだけで続けてきたんです。だから経営とか税務とか、そういう知識が自分にどれくらいあるかも分からなくって。

そういうことを専門家に相談しながら学んでいける場所があるといいなと思ってたんです。インキュベートルームはまさにそんな自分にぴったりだなと感じました。それで入居を決めました。

ミト:そう思われているような方にこそ利用していただきたいと思っているので、ありがたい限りです!他の入居者さんとの交流などはありますか?

小辻さん:同じインキュベートルームに入ってる方たちにはすごく助けてもらってます。

ミト:そうなんですね!たとえばどんなことを?

小辻さん:最近、事業計画書をつくる必要があって、その時の作り方を教えてもらったりしました。私、パソコンがすごく苦手なので……そういうことを気軽に質問できて、本当にありがたいです。

ミト:それは心強いですね。

小辻さん:はい。皆さん先輩なので、いろいろ教えてもらってます。

今後の展望

ミト:今後「ひらっく」を使ってお仕事をしていく中で、どんなことを期待されていますか?

小辻さん:やっぱりさっきも言ったように、専門家の方に相談しながら学んでいけることが一番大きいです。あと、横のつながりももっと広げていきたいと思ってます。

枚方で頑張ってる方たちと出会うことで自分もすごく刺激を受けますし、自分自身の課題も見えてきます。「この人みたいに頑張りたいな」って思えるような出会いがあると、自分のモチベーションも上がるんですよね。

だから、そういう横のつながりを広げていって、最終的には一緒にワクワクするようなことができたらいいなと思ってます。まだ今は、自分のことで精一杯なんですけど……。

ミト:今後、ご自身のキャリアやビジネスで達成したい目標はありますか?

小辻さん:はい。まずは子育て中の女性の雇用を増やすことですね。やりがいがありながらも、ちゃんとワークライフバランスがとれる、働きやすい環境を作りたいと思っています。

もうひとつは、日本の「美」を世界に広げることです。

私自身、学歴や職歴に特別なものがあるわけではなく、自分に自信がないタイプだったんですが、やりたいことを見つけて、今それに向かってがんばって突き進んでいます。

自分と同じように悩んでいる女性ってたくさんいると思うので、もっと自分が成長して、そういう女性たちの背中を押せる存在になりたいと思っています。自分が頑張っている姿を見てもらうことで、「自分にもできるかも」と思ってもらえたら嬉しいです。

ミト:最後に、今後「ひらっくコワーキング」をつかってみたい方にアドバイスをお願いします。

小辻さん:いつもと違う環境で仕事ができるというだけでもオススメなんですけど、いろんな業種で頑張っている人たちと話ができるので、とても良い刺激になります。

自分の立ち位置を客観的に見つめ直すきっかけになったり、新しい課題やヒントが見つかったり、学びや気づきがたくさんあるんです。もし他の方とコミュニケーションが取れるタイミングがあったら、ぜひ一歩踏み出してみてほしいなと思います。

交流の中から思いがけないアイデアや出会いが生まれるかもしれません。

アトリエ(事務所)を見せていただきました!

こちらが小辻さんが入居されているお部屋。

商品の置き場や、本金糸を使ったアートの制作などに使われています。

こちらは古い着物の生地を、模様に沿って金糸を刺繍するアートを製作中。

淡いピンクと本金箔の出す上品な輝きが美しいです。

「左手は見えないので、抜くところを感覚で探るしかないんです」

手際よく縫っているので難しさを感じさせないんですが、よく考えるとなかなか大変なことをされているのがわかりました。

完成するとこんな感じに。

額にいれたら、シンプルで和の美しさを感じさせるアートになります。

こちらは古い着物に刺繍されていた紋様を切り取ったもの。

本金糸で刺繍されていて、本当に繊細で、近くで見るとよりその良さを感じます。

針やハサミなどの道具の話などもお聞きしました。けれど、本金糸も含めて、こういったものが作れる方がどんどんいなくなっているそうです。

なのでこうして魅力の発信をしていくことで、引き継ぎたい方が現れたり、良い方向に進んでもらえたらと小辻さんは考えられています。

小辻さん、どうもありがとうございました!

▼詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。

Instagramアカウント https://www.instagram.com/atelier_tsuki_

枚方市立地域活性化支援センター

〒573-1159
大阪府枚方市車塚1丁目1番1号
輝きプラザきらら6階(管理事務室)

050-7105-8080

FAX:072-851-5384

開館時間 月曜日~土曜日 9:00~21:00
日曜日・祝日 9:00~17:00
貸室
受付時間
月曜日~土曜日 9:00~20:30
日曜日・祝日 9:00~16:30
経営相談
受付時間
月曜日~金曜日 9:00~17:30
この時間帯が難しい場合は、ご相談ください。

休館日:年末年始(12/29~1/3)