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2025.08.30
朝日熱処理工業株式会社 村田大和さんにインタビュー【シェアオフィス入居者インタビュー】
朝日熱処理工業株式会社
村田大和さんにインタビュー 【シェアオフィス入居者インタビュー】

話し手:村田さん
【プロフィール】
村田 大和 (朝日熱処理工業株式会社 )
元公務員。2024年4月から家業であった朝日熱処理工業に入社。「ものづくり」の奥深さを日々勉強中。

聞き手:アサカワミト
<インタビュアー>
アサカワ ミト(コミュニティマネージャー)
ひらっくコミュニティマネージャー。受付業務をしながら、施設の紹介、シェアオフィス会員などを始めとした利用者さまへのインタビューなど、つながる場と機会を作っている。ランチ会をはじめとした、交流イベントの企画、司会進行なども担当。
ひらっくシェアオフィス会員にインタビュー
枚方市立地域活性化支援センター「ひらっく」は、新たな事業の創出に加え、地域産業の振興を図るため、起業相談や売上アップ、資金繰りなど経営に関するさまざまな相談にお応えしています。
さらに、多くの方の知見を活用できるコミュニティ型の創業支援施設として、創業支援のワンストップ相談窓口となり、専門家による経営相談、人材及び組織の育成支援等を行うとともに、利用者同士が交流でき、ビジネス面での相乗効果が期待できる機会を創出しています。またセミナー・講演会の開催や会議室、セミナールームの貸し出しも行っています。
今回は5階コワーキングスペースのシェアオフィス会員さまへのインタビューをお届けします。
起業や経営の相談ができる枚方市立地域活性化支援センター「ひらっく」のコワーキング・シェアオフィスは、利用者が気軽に集まり、コミュニケーションを通して、お互いのアイデアやビジネスを磨き合い、互いの起業や事業の成長につなげることを目指します。
そんなシェアオフィスから、今回は朝日熱処理工業株式会社の村田大和さんにお話をお伺いしました。
朝日熱処理工業は「金属に魂を入れる」会社

ミト: 今日はお忙しい中ありがとうございます。それではまず、自己紹介をお願いします。
村田さん: 朝日熱処理工業の村田大和(ひろかず)と申します。役職は取締役と品質保証の部長を兼務で担っております。 ミト: ありがとうございます。ではまず、朝日熱処理工業株式会社さんはひとことで言うとどんな会社なのか教えてください。
村田さん: ひとことで言いますと“金属を熱処理加工する会社”なんですが、私たちはそれをわかりやすく「金属に魂を入れる」と言っています。
ミト: 「金属に魂を入れる」ですか。良い言葉ですね。 詳しくお聞かせください。
村田さん: まず、我々が行っている“熱処理”がどういうものかと言いますと、鉄を高温状態で一定時間保つと、鉄の組織みたいなものが変化します。そうすると鉄が硬くなったり、靱性といって粘り強さみたいなものを出すんです。
例えば車であったり様々な工業製品の部品を作る際には、この熱処理をすることで“必要となる機能を付与します”というのがこの仕事です。
それを私たちは「金属に魂を入れる」という言い方でお伝えしています。

ミト: なるほど。鉄に熱を加えることで、求められる機能や状態にするということですね。では、その熱処理の重要性というところをお聞きしたいのですが、例えば「硬さ」はどう重要なんでしょうか。
村田さん: 厳密な硬さの定義は別として、例えばボルトに使う鉄が軟らかいと、すぐに変形したり、壊れたりして使えなくなってしまいます。それを熱処理で硬くすることによって、長期間使っても壊れないボルトに仕上げることができるわけです。
ミト: では靱性、粘り強さについてはどう重要なんでしょうか?
村田さん: 硬さはとても重要なんですが、実は硬ければ良いというものでもないんです。硬すぎると急にバキッと折れるなどして、私たちの表現では“欠けやすい状態”になるんですね。そこを靱性、つまり粘り強さを加えることで、耐久性を増すことが出来ます。そういった「熱処理でしていること」の面白さを知ってもらえたら嬉しいです。
ミト: なるほど。思ったよりも色んなことが出来るんですね。奥深そうな分野だと思いました。

市役所職員から全く新しい分野へ転職
村田さん: この熱処理という技術は日々進歩しているんですが、根本「なぜそうなるのか?」ということは、実は未だに完璧に説明しきれないところがあるんです。その辺が熱処理の奥深さらしいんですが、私は入社してまだ1 年なのでまだ詳しく話すことが出来ないんです(笑)
ミト: そうなんですね。村田さんは以前は何をされていたんですか??

村田さん: 以前は市役所で働いていまして、一年前にいまの会社に入りました。というのも、この朝日熱処理工業というのは、元をたどると私の祖父が興した会社で、私は去年の4月から働き始めました。
私は会社全体の課題を見ながら品質保証の部門で、お客様からお預かりした製品の品質を検査したり、管理する仕事をしています。
ミト: そうでしたか。では村田さんは、以前からゆくゆくは朝日熱処理工業で働くことを考えていたんですか?
村田さん: それは全く考えていなかったんです。
きっかけとしては、現在代表を務める義理の兄から声をかけられたことが大きいんですが、祖父が興し、父親が守ってきた会社でもありますし、自分自身も新しいチャレンジをするいいタイミングだと思ったので会社に入ることを決意しました。
朝日熱処理工業の成り立ち
ミト: お祖父様が始められた会社ということですが、創業の成り立ちというところも少しお聞かせください。
村田さん: 元々は大阪市内の父の実家の敷地横で始めた小さい工場が最初で、その頃はまだ熱処理の会社ではなく、社名も今とは違うものでした。
その後、私の伯父と父が家業を継ぐと事業の手を広げましたので、次第に大きな土地が必要になってきまして、それで場所を探し、40年ほど前に現在の場所に工場を移しました。
ミト: なるほど、お祖父様から始まり、お父様ご兄弟で会社を大きくされて今の形があるんですね。
多様なニーズに応える「多品種・小ロット対応」という強み
ミト:ところで朝日熱処理工業さんは普段はどういったお客様からの依頼が多いのでしょうか?
村田さん: 熱処理というものは、一つの部品が出来上がるまでの1つの工程に過ぎないんです。なので熱処理工程の前のお客様、例えば部品を作るメーカーさんから、我々はお預りします。また部品によってはその間に工程が挟まります。例えば切削やプレスなどの加工が入りますので、そちらからお受け取りするということもあります。
ミト: そんな朝日熱処理工業さんの、他者との違いや自社の強みを教えてください。
村田さん: 「多品種 小ロット、部品1つからでも承ります」というのが強みだと思います。大きな会社では不向きな小ロットの部品1つからでも我々は熱処理をさせてもらっています。
身近な物から特別なものまで。熱処理が携わる幅広さ
ミト: 具体的なものとしては、どんなものを熱処理したりするんでしょうか?
村田さん: わかりやすいものでは例えば「釣り針」ですね。ちょっと大きめの針でタチウオとかを釣るためのものだそうで、丈夫な針にするために熱処理をしています。あとは皆さんが手で持つような工具ですね。
他にも、試作品のパーツとかがあります。試作品なので、実際に世の中に出ていくかどうか分からないものでもお断りせずに“まずはやってみる”というところで、お客様に信頼してもらえているかなと思っています。

ミト: ちらっとお聞きしたんですが、宇宙関連のパーツも扱っていると聞きました。
村田さん: 衛星に組み込まれているアームロボットの関節部分の部品を熱処理させてもらいました。
宇宙とか航空部品というのは精度も品質も求められます。うちはどんなものでも品質、精度にはこだわりを持ってやっているので、そのあたりを認めてもらえているんだなと思っていますし、それが我々の誇りになっています。
やってみるの精神を大切に
ミト: 今後、何か新たに注力していることってあったりしますか?
村田さん: 難しいんですけど、例えば熱処理で出る「熱」を違うカタチで活用できないかなどを考えたりしています。これはまだまだ実現性を無視している段階なんですが、例えばサウナを作れないか?とか 温室を作って植物とか野菜とか育てられないか? など、そういう角度で出来たら面白いね、みたいな話はしています。
「工場サウナ」って、やってるとこ聞いたことないよねー?みたいな感じなんですけど(笑)
我々の経営理念に“まずやってみるの精神”というのがあるので、色々なことを面白がってチャレンジしていきたいなと思っています。
ひらっくで広がる地域への貢献
ミト: ここからはひらっくについてお聞かせください。
工場は寝屋川にあるとお聞きしましたが、枚方にあるひらっくを利用されるきっかけというのはなんだったのでしょうか?

村田さん: はい。もともとひらっくを運営されている北大阪商会議所さんは枚方・寝屋川・交野がエリアですので、繋がりはありました。さらにここ数年では「不器用ファクトリー」というオープンファクトリープロジェクトを一緒に協力して活動展開しております。
我が社は以前から、地域貢献、地域に還元をしたいという思いがあるんですが、普段はどうしても工場ですので、地域と距離があります。今回入居させていただいたのも、このシェアオフィスを拠点に地域の方々とつながり貢献できる機会をと思って入らせていただきました。
ミト: 地域に還元する取り組みの窓口として、今回ひらっくのシェアオフィスに入居されたんですね。
村田さん: そうですね。会社を知ってもらうっていうこともそうなんですけど、一緒に地域を盛り立てる、作っていく取り組みができたらいいなって思ってます。
ミト: これまでの地域貢献としては、どういった取り組みをされましたか?
村田さん: 例えば地元の中学校の職業体験ですね。これは結構長くさせていただいてます。
ミト: 実はボクも不器用ファクトリーの開催時に工場見学でお邪魔したことがあるんですけれど、それで初めて熱処理というものを知りました。おそらくほとんどの生徒さんたちもその時に初めて熱処理を知ると思うんですが、どんな感想を持たれますか?

村田さん: そうですね。職業体験を通じて熱処理を知ると、“モノを扱う大切さ”を結構考えさせられるようです。体験した生徒さんたちに「お客様の製品を落としたり傷をつけてはいけないんだよ」と伝えると「すごい緊張した」とよく言っています。
例えば車1つ取ってもパーツが1万2万、ものによっては何十万点という部品から成り立って組み立てられます。その中のたったひとつの部品を私たちは預かるんですが、その1つ1つをこんなにも丁寧に扱わないといけないのか、というところに緊張感を感じたみたいです。
なので、直接熱処理というものを知るだけでなく、ここでの体験を通して、社会や世の中の成り立ちにまで想いを馳せてもらえるようなきっかけを作れたらなと思っています。
ミト: ひらっくをきっかけに生まれた企画もあるとか。
村田さん: はい。同じシェアオフィスのエルクリエイトさんが、子供達に働くことを学んでもらう機会としてエルクリキッズという活動をされていて、会社に取材にきていただきました。

ミト: ひらっくから、地域とのつながりが生まれているんですね!では今後はひらっくでどんな活動をしていかれるんでしょうか。
村田さん: まずは熱処理を知ってもらいたいということがあります。私自身が勉強中ではありますが、みなさんにわかりやすく熱処理の魅力を伝えていければと思っています。
また熱処理に限らず、”ものづくり”の楽しさや面白さを伝えていく中で地域との繋がりをもっと広げていきたいと思っています。
ミト: 熱処理という大事な工程は、組み立てて仕上げることとは違う角度の物作りで、そこの大切さをもっと知ってもらえたら嬉しいですよね。

ラジオを通して知る、鉄の真価
ミト: 村田さん個人が影響を受けた本はありますでしょうか?
村田さん: 岡本太郎の「自分の中に毒を持て」は好きです。ただ僕は本よりも最近はラジオが大好きなので、その紹介でもいいですか?
ミト: おっラジオですか。ボクもラジオが好きです。どんなラジオですか?
村田さん: 「COTENRADIO」ってご存じですか?
ミト: はい、知ってます。人気のポッドキャストですよね。

村田さん: 先日聴いた回が「科学技術の歴史」というもので、歴史上でめっちゃインパクトのあった科学技術が 20個ぐらいありますよという話だったんですが、その中の 1 つが「鉄の生成」だったんです。
石器時代、青銅時代とあると思うんですが、実は我々の文明は未だに鉄器時代なんです。安価でどこでも取れて、耐久性があって加工もしやすい。材料としての鉄というのは圧倒的に優秀なんですね。いかに私たちの身の回りに鉄が存在していて、鉄に支えられているか。
この仕事を通じていろいろな人の話を聞く中で、熱処理という仕事がなくてはならないものだということが、よくわかりました。
それを知ると、やっぱり世間の人にもっと知ってもらいたいって気持ちが芽生えますし、そういう話が出来るきっかけをもっと作っていきたいなって思います。

ミト: なるほど。身の回りに当たり前のようにある鉄と、熱処理も含めたそれを加工するための技術が、どれだけ私たちを支えているか。そしてその一端を担っている朝日熱処理工業さんの役割の大切さをとても感じることが出来ました。
これからも物作りを通して、その大切さを伝えてもらえたらと思います。今日はどうもありがとうございました。
村田さん: ありがとうございました。
